POM の圧力傾度力

アサイド

著名な海洋物理モデル Princeton Ocean Model (POM) を使っていて、1ヶ月以上にわたり悩まされた問題について、メモ代わりに残しておきたい。予め書いておくと、自分は初期値として水平に密度勾配があるという条件について数値実験していた。そしてこのことが問題となっていた。

この海洋モデルでは座標系のうち鉛直方向を、一般的な直交座標系ではなくシグマ座標系というのを採用している。シグマ座標についてはほかにいくらでも書かれているので、ここでは詳細に記載しない。メリットもあり、デメリットもある。

デメリットの一つに、Pressure Gradient Error という誤差がある。海洋において圧力とは、主に水の密度である。この密度が水平に異なるとき、高密度の方から低密度の方へ流速が起きるような力が生まれる。これを圧力傾度力と呼ぶ。シグマ座標系において圧力傾度力の計算で起きる密度の打ち切り誤差は、圧力傾度力に対して過大に影響する。これが Pressure Gradient Error で、シグマ座標系の問題として長く議論されている。

POM ではこの誤差を軽減するため、圧力傾度力を計算する前に密度から密度の平均値を一旦減算 (rho = rho - rmean) し、圧力傾度力の計算が終わると再び加算 (rho = rho + rmean) する。こうすることで、密度の絶対値ではなく相対値によって圧力傾度力が計算され、打ち切り誤差が軽減される。ここで密度の変数は rho、密度の平均は rmean である。

問題は、この rmean の初期化にある。初期化する部分のデフォルトのコードは以下のようになっている。

見ての通り、rmean = rho であって、平均でも何でも無い。コメント部分を読むと、『密度の初期値が水深のみの関数であるときはこれで大丈夫。水平に密度勾配があるときは平均するように。』というようなことが書かれている。これを見逃していたために、圧力傾度力が正しく計算されていなかった。これが問題のすべてである。

解決するためには、rmean に適切な平均値を入れるか、またはいっそ 0 を代入しておいても良い。Pressure Gradient Error は大きくなるものの、大した問題ではない。

ということで、POM を使って初期値に水平の密度勾配がある条件の数値実験をする際には、rmean を適切に初期化しなければならない、という教訓です。1ヶ月くらい気付かなかったし、すごく辛い思いをした。普通に、平均という名前の変数には、最初から平均を入れておいてほしい。

インターネット端末に過ぎない

アサイド

自分はインターネット端末に過ぎないのだという妄想をしている。インターネット上に明確な実体の無い何らかの知性があって、自分と話す人間は自分を介してインターネットにインプットし、自分を通してインターネットからのアウトプットを得る。ここで自分は単なる端末に過ぎず、人格を持たない。

これは妄想であって、真実とは程遠い。誰しも人格を持っていて、何かの端末機能だけを持つような存在ではない。これが紛れもない真実であることに疑いの余地はないのだけれど、しかし同時に、我々は人を何かの端末のように認識している場合があるのではないかと思う。

ある政治団体に所属する政治家が何か語ったとき、それは政治団体の言葉として受け止められる。その政治団体を支持するために、選挙でその政治家に票を投じる。その政治家の背景にある政治団体、あるいは政治的思想に、政治家個人を通じてアクセスする。多くの場合、政治家個人のパーソナリティは意識されない。

テレビで、東日本大震災で被災地の子ども達が果たしためざましい活躍を特集していた。そこは東北地方の、未だ地域共同体が根強く生きているような、そういう場所であった。子ども達が、随分と大人びた言葉を発しているように思われた。それは子どもの言葉というより、まるでそのコミュニティそのものが発する言葉に聞こえた。一見頼もしく、しかし不気味だった。

子ども達は地域共同体というコミュニティの端末だと思った。コミュニティというクラスタリングされたサーバーのクライアント端末。テレビカメラが、自分が、子ども達という端末を介して、地域共同体の空気をなぞる。

特定のコンテキストにおいて、人は個人から端末に変わる。まるで端末であるかのように振る舞い、まるで端末あるかのように認識される。ときにこのことで個人の人格が無視され、一個の端末として取り扱われるのだと思う。それはもしかすると便利で、そして邪悪だ。

壁が薄い部屋

アサイド

彼女の住むアパートに遊びに来ていて、ちょっと彼女が出掛けている間にうたた寝をしていた。

気がつくと、どこからか音楽が聴こえる。部屋の中を確かめるが音源が見つからない。少しして、隣室から聞こえていると分かる。

壁が薄いから仕方ないと我慢するが、一向に止む気配がない。壁に目を凝らすと、隣室に住む青年の影が見える。部屋の様子まで見えてくるように感じる。

ふと青年と目が合い、ああ、こんにちは、なんて話しかけてくる。それまで壁と思っていたのは、白いレースの布切れだった。居心地の悪さを感じながらも、青年と世間話を始める。

という夢だった。

パソコンに一礼を。

アサイド

パソコンの調子が悪い、というような言葉が口にされているのを、ごく頻繁に耳にするようになった。偶に気が向いてどうかしたのかと尋ねると、ああだこうだと語り始める。一寸、それを制して、はじめに礼はしたのか、と訊けばきょとんとした顔をする。だからパソコンに一礼はしたのか、と訊いて、ようやくわかり、ハッとして下を向く。

日々の仕事の多くをパソコンに頼るようになって久しく、最早それなしでは立ち行かない毎日を送っている。それだのに、何かあればパソコンが悪いと口々に言う。パソコンを使うな、などと物分かりの悪いことを言うつもりはないが、皆もう少しパソコンに敬意を払って然るべきだろう。早くからコンピューターを使っていた者は必ず、上手く働いてくれるよう日に何度も祈っていた。それが最近では、上手く働いて当たり前のように考える者が多いのだから、開いた口がふさがらないとはこのことだ。

もっとパソコンを労ってはどうか。定期的にメンテナンスし、いつも綺麗であるようにクリーニングクロスで磨く。液晶に埃がついているなど以ての外だ。そうして、毎日パソコンを使用する前には必ず一礼をする。いつも仕事をしてくれて有難う、というその気持ちが、パソコンに伝わるのだ。パソコンの調子が悪いという人間に、必ず一礼をしているという者を見たことがない。

パソコンに一礼を。